米沢市や山形県を舞台にしたアニメ映画「好きでも嫌いなあまのじゃく」公開決定!あまのじゃくとは…
2024年5月24日(金)から、アニメ映画「好きでも嫌いなあまのじゃく」(略称:好きあま)が公開されます。徐々に詳細が明らかになるでしょうが、YouTubeにトレイラーが公開され、地元・米沢市ではニュース報道されています。
この作品は、ペンギン・ハイウェイなどの長編アニメ映画を手がけたスタジオコロリドの最新作です。
季節外れの雪が降った夏の日。僕は君に出会った-。
山形県に住む他人に合わせすぎる普通の高校1年生・八ッ瀬柊と、母親を探す異世界の鬼少女・ツムギ。
“少年”と“鬼の少女”が紡ぐ、ひと夏で、ひと冬の青春ファンタジー。
映画はイオンシネマやNetflixで世界独占配信される予定です。
また、公開前には角川つばさ文庫より新書も発売され、予約販売が開始されています。
公式サイト
https://www.amanojaku-movie.com/
好きあま米沢応援隊
https://travelyonezawa.com/amanojaku-movie/
ちなみに、私が5年前にペンギン・ハイウェイを観て書いたレビューはこちらです。
スタジオコロラドを知らなかったけど観てみようかと思った方は、よろしければご一読ください。
好きあまの柴山監督は「千と千尋の神隠し」に参加したスタッフ
私が「好きでも嫌いなあまのじゃく」を紹介する理由は、地元米沢市が舞台になっているだけでなく、柴山監督がスタジオジブリ出身で「千と千尋の神隠し」の制作に関わっているからです。
私は、これまでの歴史家が調査していた内容から逸脱した視点で、山形県の山岳信仰を調査しています。その視点から「千と千尋の神隠し」を観ると、間違いなく山岳信仰にマッチした物語になっています。以前に書いた記事では、江戸時代まで山形県に存在した山岳信仰との関連性を軽く紹介しています。
また、柴山監督が私と同じ年に生まれていることも興味深いですね。
日本の超氷河期に社会へ出た谷間の世代です。好感が持てます。
人には運命があります。「千と千尋の神隠し」の宮崎監督と同じく、柴山監督もそれに引き寄せられて「好きでも嫌いなあまのじゃく」という作品を生み出すことになったのでしょう。しかも、苗字に山がついています。もしかしたら、DNAに組み込まれた宿命なのかもしれませんね。
あまのじゃく(天邪鬼)の意味とは?
「好きでも嫌いなあまのじゃく」のトレイラーや公式サイトから、コンセプトや設定が大まかに理解できます。ここから、これまでのアニメ映画のセオリーやコロラド作品の雰囲気を考慮してストーリーを予想すると、物語の要素が見えてきます。
それでは、この「あまのじゃく」とは一体何なのでしょうか。
「あまのじゃく(天邪鬼)」とは、通常、「自己主張が強く他者に従わない人」や「ひねくれ者」というネガティブな意味で使われます。現代では、ツンデレなどとも関連するかもしれません。"鬼"や"天邪鬼"といった言葉は、ライトノベルなどでよく見られるものです。おそらく、そのギャップが視聴者に好評をもたらし、物語を際立たせるのでしょう。
「好きでも嫌いなあまのじゃく」は、発表段階の画像やトレイラーでも"あまのじゃく"の特徴が強調されていることがわかります。
このタイトルには、「好き」と「嫌い」という対照的な言葉が組み合わされ、"あまのじゃく"の特徴が際立っています。キャラクターも、他人に合わせる性格の八ッ瀬柊と、破天荒な笑顔を持つ鬼の少女ツムギという対照が描かれ、彼らの服装も暖色の半袖と寒色の長袖という対比があります。さらに、名前も柊とツムギで対照されており、柊は「鬼の目突き」を意味する保守的な利己を暗示するイメージ、一方ツムギは「紬・紡ぐ」という意味で発展的な利他を暗示するイメージを持ち、両者の性格と真逆の対比で"あまのじゃく"の特徴を強調しています。これらはストーリーに影響しそうです。夏に雪が降る描写も"あまのじゃく"の特徴を強調していますね。
このように、このアニメは設定段階で"あまのじゃく"が押し出されています。
八ッ瀬柊は普通の人間ですから、鬼であるツムギとの出会いがどのように描かれるか楽しみです。安直な想像では空から降ってきそうです。真逆の対比によって、あまのじゃくの物語がよりわかりやすくなっていることでしょう。
物語の詳細を分析するわけではありませんが、「好きでも嫌いなあまのじゃく」は発表段階からコンセプトが明確であると感じます。前半と後半で"あまのじゃく"の要素がうまく対比で表現されれば、面白い作品になっていそうですね。
次に、私の専門である山形県の山岳信仰の視点を絡めて、天邪鬼の歴史と「好きでも嫌いなあまのじゃく」の物語に共通するかもしれない点を軽くご紹介します。日本人として歴史観を考えさせる内容もあると思います。青春アニメにつられて読んでいる方は、ご興味があるところだけ飛ばし読みしてください。
天邪鬼の民話:その存在
天邪鬼の言葉やイメージではなく、その実態について知ってみましょう。
天邪鬼は、東北・北関東をはじめ東海地方や近畿地方の民話に登場する小さな鬼で、物まねが上手で他人の心を読み取るとされています。一般的には、現代では悪い妖怪の一種として描かれています。
私の解釈によれば、天邪鬼の民話が残る地域は、幕末の戊辰戦争で新政府軍に敗れた山岳信仰の歴史が息づいている土地です。この頃から、天邪鬼のイメージが悪化し始めた可能性があります。幕府が推奨した山岳信仰に対する迫害が始まり、それによる争いが顕著になっていったことが影響していると考えられます。山形県もその一例であり、新政府軍の方針によって大きな被害を受けた地域の一つです。
このような民衆運動の中で、天邪鬼のイメージが否定的な方向に変化した可能性があります。
例えば、「ホラ吹き」という言葉は、山伏が法螺貝を吹く様子を指しており、後に嘘をつく人を指すようになりました。同様に、「泥棒」は修験者が山に登る際に使った棒を指していましたが、後に盗人を指す言葉となりました。これらの伝承や言葉は、山岳信仰の変化とともに後世に伝わり、山形県を含む地域の文化や教育にも影響を与えました。この影響は今でも残り、地域の誇りを取り戻す過程に影を落としています。第二次世界大戦で敗戦した“とある国”のように…。
天邪鬼は、これらの地域の民話に登場する存在であり、古来の日本の伝承とは異なる可能性があります。元々、山岳信仰を築いたのは役小角(えんのおずぬ)と、修行の旅をした前鬼と後鬼の鬼の一族でした。
「好きでも嫌いなあまのじゃく」が公開されることで、山形県民が誇りを取り戻すきっかけとなり、天邪鬼が良い未来を築いてくれる可能性もあります。個人的には、描かれる天邪鬼が善良な存在であることを期待しています。
本当は利他的な優しい心を持っていた赤鬼が、まだ泣いたままでいるのですから。
(山形県高畠町民話:泣いた赤鬼より)
古来日本における神仏の天邪鬼
天邪鬼は、仏教において人間の煩悩を象徴しているとされています。毘沙門天の鎧に描かれたり、踏まれたりしています。
古来の日本では、日本神話や古事記に登場する天稚彦(あめのわかひこ)と、人の心を探る力を持つ女神・天探女(あめのさぐめ)が天邪鬼や天狗の祖とされています。この両者が登場する神話をかいつまんでみると次の通りです。
「葦原中国の平定を命じたけれど、天稚彦と天探女が八年たっても帰ってこないじゃないか!」と、天照大御神(あまてらすおおみかみ)と高御産巣日神(たかむすびのかみ)が話し合いをしていました。天照大御神に「ちょっと伝言をお願い!様子を見て来て!」と、キジが遣わされました。そのキジの言葉を聞いた天探女は「不吉だ」と言い、キジは天稚彦に射殺されてしまいました。その矢は天上の高御産巣日神まで届き、怒りを勝った天稚彦は自分が放った矢によって制裁されてしまいました。
この天稚彦と天探女が、中国から伝来した仏教に習合されていって、天邪鬼として毘沙門天に踏まれているという経緯があるようです。それは、密教と融合した山岳信仰に取り入れられたことを意味します。
日本神話に登場する神様は命や尊を敬称とします。しかし、この二柱の神にはつきません。
山岳信仰の参詣道が世界遺産になっている和歌山県の平間神社では、天探女を天佐具女命(古事記名)と命をつけて御祭神として祀っています。また、紀伊半島では「鬼」を「カミ」と呼ぶ地域があります。私が米沢市で教えている九鬼神流棒術=クキシンリュウボウジュツが発祥した紀伊半島では、クカミシンリュウボウジュツと呼ばれることがあります。ここにも歴史の謎が隠されているのだと考えます。
このような背景から「好きでも嫌いなあまのじゃく」の物語には、古代の神話がオマージュされているシーンがあるかもしれません。主人公の名前は八ツ瀬で八年過ぎた男の子、ツムギは天邪鬼の女の子です。天稚彦と天探女と類似します。こんなふうに、天邪鬼の歴史や舞台である地域の風土を知った上で映画を鑑賞してみると、新たな発見や製作者の解釈が見れて面白いでしょう。
最後に、「好きでも嫌いなあまのじゃく」に描かれたと現段階で発表されている米沢市のロケ地をご紹介します。
米沢市が舞台になった「好きでも嫌いなあまのじゃく」のロケ地
米沢駅前
米沢市の玄関であり、米沢牛のお肉屋さんが立ち並ぶエリアです。観光地や繁華街ではなく、地域の生活圏であり、中学校や病院、社寺がある地域です。かつて、江戸時代までは湯殿山や飯豊山への山岳信仰参詣道が通っていました。
山形県立米沢商業高等学校
山形県立米沢商業高等学校は、主人公・八ツ瀬柊が通う高校として登場します。約9割が女子学生で、老朽化した校舎のため、米沢工業高校と統合され、米沢鶴城高等学校として移転することが決まっています。グラウンドの隣には、米沢市内で最も古い湯殿山信仰の最高仏・大日如来を祀る昌伝庵があります。余談ですが、そこは私の祖父母が住んでいた場所です。
笹野観音(長命山高徳院)
笹野観音は、米沢藩の上杉家のお殿様の葬儀が行われた寺院であり、山岳信仰の名残が今でも見られます。観音堂をぐるりと裏に回ると蔵王権現が祀ってあり、山岳信仰の入口であったことがわかります。
西條天満公園(西條天満神社)
西條天満公園は、米沢城の三の丸土塁跡であり、直江兼続が築いたとされる場所です。神社が祀ってあり、裏手の小道はお城に通うために米沢藩士が歩いた旧道です。たまに、リアル米沢商業高校生がダンスの練習をしてたりもします。
小野川温泉
小野川温泉は、小野小町が滞在した伝説が残る温泉地であり、歴史ある観光地です。温泉街の中心に尼湯と薬師如来が祀ってあります。この温泉街の外れにある甲子大黒天本山は、米沢藩のお殿様が参っていた白子神社と分離して、湯殿山大日寺の薬師如来を保護して本尊として祀った山伏寺として知られています。念珠作りや写経体験、御朱印が人気です。
以上が、「好きでも嫌いなあまのじゃく」で描かれている米沢市のロケ地です。
公開日は2024年5月24日(金)です。
詳細は以下のホームページで先行試写会の募集も行っていますので、ぜひチェックしてみてください!
好きあま米沢応援隊
https://travelyonezawa.com/amanojaku-movie/
最後まで記事をお読みいただいてありがとうございます。仕事や講演の相談もお気軽にどうぞ。米沢藩・小山道場講師。江戸幕府から米沢藩士になった藤原氏の末裔。【古武道流派】九鬼神流棒術(紀州熊野)/甲源一刀流剣術(甲斐)/浅山一伝流体術(会津)【所属団体役職】置賜民俗学会(会員)/米沢商工会議所(議員)【職業】HanaCinema株式会社/映像・ウェブクリエイティブディレクター。